オリヴィエ・シェニョン

エグゼクティブシェフ
L’OSIER(ロオジエ)

「私は常に国内外の高品質な食材を探し求めています。全国の生産者を訪れるたびに、新しい発見があります」とオリヴィエ・シェニョンシェフは語ります。銀座の三つ星レストラン「ロオジエ」で忙しく働く彼は、限られた時間をフル活用して全国の生産者に直接会いに行くといいます。そして2022年11月に佐賀県鹿島市のAkaitoファームへの訪問も実現しました。

ロオジエの伝統とフランス料理の本質を守りながら、革新的な“ロオジエの味”を創造しているシェニョンシェフは、2023年に創業50周年を迎えた伝統ある名店の運営において持続可能性を最優先事項に位置づけています。ロオジエを経営している資生堂と同様に運営全体においてSDGs(持続可能な開発目標)を推進しており、化学肥料や農薬を使わない有機農業を可能にする「マイクロバイオーム農法」をシェフという立場で推進しています。

シェニョンシェフが希求するSDGs

ロオジエでは、シェニョンシェフのリーダーシップのもと、高級料理と環境意識をシームレスに融合させています。レストランの電力には再生可能エネルギーを使い、石鹸はキッチンから出る油(廃油)をリサイクルして作られたものを使用、環境に配慮している農場からの生産物を調達するなど、さまざまな持続可能な取り組みを行っています。

また、彼は、特別な乳酸菌とその代謝物を活用する「マイクロバイオーム農法」という有機農法によってレストランの食材を生産することで、日本の農業を支援することをめざしています。

シェニョンシェフのこうしたマインドは、化学肥料や農薬を使わない農業を九州のローカルコミュニティと協力して実践するAkaitoの理念に通じる部分が多くあります。

オーガニックを取り巻く日本の状況と向き合う

シェニョンシェフは日本各地に足を運び、投網漁や養殖漁業に頼らず一本釣りした魚や、環境に配慮した養鶏場からの地鶏・卵、有機栽培の野菜などを積極的に仕入れてきました。彼は自分自身を、生産者とレストラン業界の橋渡しをする存在だと考えています。

「フランスで育った私にとって、新鮮な有機農産物は常に身近なもので、周りにはそうしたものがあふれていました。形がいびつだったり、傷があったりする果物や野菜も完璧なものと同様に店頭に並び、消費者が自由に選択することができます」と彼は言います。「栄養価の高い食品を環境に優しい方法で育てることを重んじることは、フランスでは当たり前のことです。有機農産物に対する消費者の需要が農家に有機農法での生産を促し、幸せな循環が生みだされるのです」。

しかし、2013年にロオジエのエグゼクティブシェフに就任して間もなく、日本のオーガニックムーブメントには勢いがなくフランスの状況とは異なることを理解しました。食品生産者と話をする中で、有機認証を取得するためには数多くの障壁があり、世代間の考えの違いが有機農法に取り組む農家が増えることを妨げるケースがあることも知りました。また、彼は有機農法の推進において政府が積極的な役割を果たすために、有機農法に移行する農家への補助金やインセンティブを提供するべきでは?と考えていましたが、地方自治体の担当者と会ったときには、あまり熱心な反応は得られませんでした。

それでも彼は、日本の農業の未来を憂うのではなく、希望を抱いて行動しています。「私は、高い価値を持つ食品への需要を喚起することで、この産業を刺激したいと思っています」。そして実際に、ロオジエのメニューは彼の「持続可能な食文化」への意志を力強く表しています。

AKAITOとの出会い

日本産であるAkaitoサフラン®を紹介されたとき、ぜひ試してみたいと思いました。「Akaitoと出会うまで、私は日本でサフランがつくられていることさえ知りませんでした。Akaitoのサフランは、私が各地の生産地を訪れる際に出会いたいと思っている、まさにそうしたものでした」と、彼は振り返ります。

そして、彼は現在、Akaitoの価値観 ― 最も高品質で倫理的に生産されたサフランを世界に届けることで日本のサフラン産業を持続可能にする – を高く評価しています。

海外のサフラン産業に目を向けてみると、そのサプライチェーンは管理が不透明で、不純物が混合されたサフランの流通が蔓延、強制労働とも思われる非倫理的な労働契約が横行していることなどが知られています。このような現状に対してAkaitoは、生産者から顧客まで透明性のある供給体制を確立することに挑戦し、非常に手間のかかる花の摘み取りや、最高の鮮度を保つために細心の注意を払って乾燥させる手作業に正当な報酬を支払っています。この挑戦は、一度は衰退したサフラン産業の再生をめざすものであり、Akaitoは、日本のサフラン産業と国内外の一流レストランを結びつけたいと考えています。

「Akaitoは、私がこれまで使ってきた輸入サフランよりもはるかに高価ですが、私は同社の持続可能なビジネスモデルへの取り組みを支持していますし、Akaitoとの協働作業に喜びを感じています。サフランの自然の色が現れるまでの時間をも楽しみ、調理を通じて広がる香りや繊細な特性を発見することは驚くほど楽しかったです。塩味のある料理にも甘みのある料理にも、素晴らしい調和を生み出します。」

Akaitoと出会ってから、シェニョンシェフはパティスリーを含むさまざまな料理に、Akaitoサフラン®を独創的に活用しています。コース内で提供されるデザートのひとつ「LE SOUFFLÉ SAFRAN DE SAGA “AKAITO” ET VANILLE DE TAHAA CRÈME GLACÉE, FRAISE MARINÉE」では、サフラン風味のスフレにAkaitoサフラン®とタヒチバニラのアイスクリームが添えられています。太陽のような黄色のアイスクリームは甘い花のような味わいで、下に覗く酸味のあるイチゴと、上にのせられたラズベリーのチュイルが絶妙なバランスを保ちます。バニラの豊かさと繊細でありながらも力強いサフランの余韻が口に広がります。

「お客様はデザートでサフランを見かけて驚いたようですが、バニラとサフラン、温かいスフレとアイスクリームの組み合わせは抜群の相性です。」

Olivier Chaignon

オリヴィエ・シェニョン Olivier Chaignon

「タイユヴァン」、「ピエール・ガニェ―ル」のパリ本店などで経験を積み、2005年「ピエール・ガニェール・ア・東京」の総料理長として来日。2013年「ロオジエ」のエグゼクティブシェフに就任。『ミシュランガイド東京2015~2018』では二つ星、『ゴ・エ・ミヨ東京2017』において「今年のシェフ賞」受賞、『ミシュランガイド東京2019』で三つ星を獲得し、現在もその評価を保持している。